YouTubeにおける低評価は、はたして本当に”低評価”の働きをしているのだろうか?
先日、お笑い芸人のTKO 木下隆行 氏は、自身が招いたパワハラ騒動に対する謝罪・釈明動画の投稿を皮切りにYouTuberデビューを切りました。動画には2020年4月28日時点で驚きの33万の低評価と6万を超える批判コメントが付き「YouTubeで日本一の嫌われ者」っと話題になりました。
報道により生々しいパワハラの実態が明るみに出て社会は鋭く反応しました。現在でもTKO木下さんの投稿する動画にはたくさんの低評価が付けられています。今回のような事象は初めてではなく、過去にも「嫌われ者」のレッテルが貼られたYouTuberには数多くの低評価が付いてきました。
YouTubeでは"悪者"を容赦なく叩く文化が根強いことは明らかとなりましたが、しかし、ここである疑問が投げられました。それは「低評価は実はYouTubeアルゴリズムに良い評価を与えているのではないか」という疑惑です。陥れるために押している低評価ボタンが実は成功に向けて背中を後押す材料になっているかもしれないのです。
今回の記事では、海外も含め有力記事やYouTubeの公式ガイドラインを調べ抜き、「低評価が動画に与える働き」について真実を究明しようと試みました。
*クリエイター=YouTuberは同義として扱っております
YouTubeの低評価について
まず結論ですが『真相は不明』でした。
その理由はふたつあり、ひとつはYouTubeはアルゴリズムやメトリックスについて、ざっくりとしたガイドラインを公開していますが、その詳細についてはしっかりとベールに包んでいるからです。
もうひとつはYouTubeはアップデートを頻繁に繰り返しているので、仮に今の時点で正体を掴むことができても、明日にそれは別の姿に形を変えていることが起こりうるからです。
真実を得るのは、まさに雲をつかむような話ですが、国内外の多くのクリエイターやマーケッターが身を削った検証で「低評価」について集めたデータをもとに、その影を推し量ることは可能です。
収益には影響がない?
YouTubeコンサルとしてノウハウを発信している、美容師YouTuberおのだまーしー氏が検証したところ、アドセンス収入(自動広告)については、低評価の割合が高かったとしても単価に影響がないということが分かりましたた(2018年10月13日時点)。
そんな噂回ってますよね!
— おのだまーしー🐶YouTube先生ましP (@ma_shi_onoda) 2018年10月13日
それホントなのかなぁ と思って今調べてみたんですけど
低評価の多い動画の収益調べたら 単価全然低くなくて正常でしたw
YouTube動画で収益を得たことない人が流してる単なるウワサですね🙂
YouTubeの規約で収益見せられないんで伏せてますがスイマセン... pic.twitter.com/h4kGWRhfWh
海外の大手Q&Aサイト”QUORA”においても、低評価がYouTube収益について与える影響についての質問が投げられ、いずれも下記の例のように「低評価は広告収入の単価には何ら影響がない」と確認されています(海外のフリーYouTubeコンサルより)。
以上から、アドセンス収入に対しては影響が無い又は極めて低い説が濃厚ということが分かりました。この事実は既に多くのクリエイターの間では周知されており、低評価がついても必要以上に深刻に受け止めなくてもよい所以であるとされています。
しかしながら、YouTuberの第二の収入源である”企業案件”はどうでしょうか。あなたが商品の宣伝をYouTuberに依頼したい立場だとして、多くの低評価が集まるクリエイターにPRを依頼しようと思うでしょうか。答えは心象形成において極めて不利な立場に追いやられることが予想されます。
YouTubeデータベース「kamui tracker」やYouTube総合情報サイト「かむなび」を運営する企業マーケター和田 洋祐氏は、YouTube議題の対談において企業案件で求められる人物像として『もちろん登録者数や平均再生回数も見ますが、日頃どんな動画を上げて、どんな反応があるか、コメントの質なども見ます』と発言しており、低評価の数が指標として企業担当の目を引くことを示唆しています。
記憶に新しいところで、2019年には子供向けコンテンツの大幅な規約変更があり、キッズ向けのクリエイターの単価が急激に下がり業界全体に大きな影響を与えました。つまり、アドセンス収入は全権をYouTube運営に握られており、これは安定収入を夢見る多くのクリエイターにとってはリスクとなります。
従って、クリエイターは出来るだけ企業案件などアドセンスに頼らない形で収益を確保しようと努めているのが最善とされている傾向ですから、やはり低評価を集めることは企業案件の減少に繋がりかねないという点で避けるべきアクションでしょう。
以上から、「低評価」はアドセンス収入に関しては影響が薄いが、企業案件の収益に関しては大きな影響を及ぼすものという結論に至りました。
SEOには影響がある?
一方では、SEO(*どれだけ優先的に表示されるか)に対してはYouTubeアルゴリズムに影響を与えるという説が強いです。SEO専門家として権威のあるBrian Dean氏は、YouTubeにある130万の動画を分析した結果として、『高評価の数が多ければ多いほど上位表示される』と説明しています(当たり前と言えばそうですが)。
上記のデータより、YouTubeは「高評価を直接的なランキング要因として位置付けている」もしくは、「高評価はYouTubeが高く評価している別指標にポジティブな影響をもたらしている」と分かります。この点については多くのユーザーが予想する通りの結果だと思います。
それでは逆説的に「低評価は悪い意味でランキング要因として位置付けられている」と無条件で考える人も多いですが、はたしてそれは真実でしょうか。答えは全くの逆で、多くのデータが示しているのは『低評価は高評価と同様にSEOに好影響を及ぼしている』という節です。
動画のWebマーケティングにおいて専門性の高さから人気を博し、チャンネル登録51.8万人をかかえているTim Schmoyer氏によると、多くの検証をもとに判明したのは低評価は高評価と同様の効果があるということです。YouTubeがSEOにて重視するのは動画へ反応があった事実(=エンゲージメント)であり、その良し悪しは区別しないということです。
低評価を重視しない理由としてあげられているのは、YouTubeは世界中の人が使用するのを前提に運営されているプラットフォームであり、ネット上で気軽に行える低評価は人種差別や特定人物への攻撃という残忍な方向へ進むことに繋がりかねない危険性をはらんでいるからで。
最近では"dislike mobs(特定の動画を大勢の低評価で攻撃する嫌がらせ行為"が大きな社会問題となり、プロダクトの責任開発者であるTom Leung氏は将来的な評価機能の撤廃すらもひとつの選択肢として視野に入れるようになりました(下記の動画は日本語字幕にて視聴可能)。
つまり、YouTubeとしては「低評価」については重要な指標としては捉えておらず、SEOに関しても無影響もしくは説にある通りエンゲージを高める好要因であることが分かりました。
また、コメントについても内容がアンチ的なものだったとしても、YouTubeアルゴリズム的には高い評価に繋がるという説があります。一生懸命に批判しているつもりが応援になっているかもしれないのです。
メンタルには効果が高い
一方で、低評価が与えるクリエイターへの精神的な攻撃力は高いとされています。低評価の意味が「収益を妨げる」ではなく、「動画を投稿しないで欲しい」というメッセージであれば一定の効果が見込めます*炎上商法として狙って起こす勢を除いて。
例えば、元女子高生社長としてたびたびネット界隈で話題となる椎木 里佳氏もYouTuberデビューの流行に乗ったひとりでしたが、普段の言動から否定的な評価を下してくる(アンチ)層が厚く、開始直後から異常なまでに低評価の嵐という悲惨な状況でした。
結果として、『頑張る』と宣言していたYouTube活動でしたが、投稿も最初の1,2週間は続いたものの直ぐに気力を失い投稿が減り、ついには半年も経たずして心が完全に折られて今では自然休止状態となってしまいました。
上記は低評価がもたらすモチベーション低下の典型的な例であると思われます。しかしこれらは「デビューしたてのクリエイター」に限定されるかもしれません。既にそれなりの規模にあり、熱心なファン層を抱えていたり定期的な収益を見込めている場合は、粘り強く進めていく、いわゆる”炎上復活劇”が見受けられます。
炎上から4カ月…
— ヒカル【NextStage】 (@kinnpatuhikaru) 2018年1月8日
今の本音。
さっきバーッて打ってあんまり確認してないけど
良かったら読んでください。 pic.twitter.com/M9j1livhNO
人気YouTuberヒカルやワタナベマホトは、かつて炎上によりネット層叩きの”低評価”地獄に陥りましたが、復活を見せて今では再生数・高評価率はともに回復しています。
本当に効く”低評価”とは
ここまでで、YouTubeアルゴリズムは複雑な計算の組み合わせから成り立っているので、低評価は考えるほど安易に直接的に悪影響を与えるものではないと分かりました。
ただ、もしイタズラ心や不正義からではなく、まっとうな理由から動画に対して「非共感」の意志を表明したいのであれば、本当はどのようなアクションを取るのが最善でしょうか。
最強の策は動画をみないことです。投稿者の①収益を発生させず、②やる気をも削ぎます。微塵も世間の話題とさせずに、そっと放置することが最も効果的です。
動画を作成するというのは、本来かなりの労力を伴うものです。苦労して作り上げた作品が誰にも取り上げられないというのは、全てのクリエイターにとって辛い結果になります。
しかしながら、ムカつくYouTuberが動画を載せたり、ショッキングなサムネイルが目に入ってしまい、どうしても動画をクリックしたくなる時もあると思います。
そんな時は、動画を開いたら出来るだけ直ぐに離れることにしましょう。GoogleないしやYouTubeのSEOが重視している指標に"視聴維持率"があります。ユーザーはどれだけ長い時間動画が見られたかを図られており、長ければ長いほど高評価に繋がってしまいます。逆に、直ぐに動画を離れることによってコンテンツの質に疑問を持たせることが可能です。
本当に動画に抗議の意を示したいのであれば、「見ないこと又は長く見ないこと」
を心掛けることが大切です。
低評価についてまとめ
この記事で伝えたいことを要約すると以下の5点となります。
- 低評価は自動広告収入に影響はない
- 低評価は企業案件に悪影響を与える
- 低評価はSEOに好影響を与える
- 低評価はメンタルに悪影響を与える
- 低評価より無視することが1番効く
低評価は何も知らないユーザーが思うほど、”本当は低評価になっていないかもしれないよ”と投げかけるのが、この記事の主旨でしたので、その点を少しでもイメージして頂けたのならば幸いです。